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俳句575No2「切れ字って何」

「奥の細道」より

1草の戸も住み替る代ぞひなの家

             季語   ひなの家

             切れ字  ぞ

 

①    2行春や鳥啼魚の目は泪

             季語   春

             切れ字  や

 

1●3あらとうと青葉若葉の日の光

             季語   青葉 若葉

             切れ字  

 

2●4剃捨て黒髪山に衣更・・・・・曾良

             季語   衣更

             切れ字

 

②    5暫時は滝に籠るや夏の初

             季語   夏

             切れ字  や

 

3●6かさねとは八重撫子の名成べし・・・・・曾良

             季語   撫子

             切れ字 (命令形や形容詞の活用などの切字か?)

 

7夏山に足駄を拝む首途哉

             季語   夏山

             切れ字  哉

 

8木啄も庵はやぶらず夏木立

             季語   夏木立

             切れ字  ず

 

9野を横に馬牽むけよほとゝぎす

             季語   ほととぎす

             切れ字  よ

 

10田一枚植て立去る柳かな

             季語   柳

             切れ字  かな

 

11卯の花をかざしに関の晴着かな・・・・・曾良

             季語   卯の花

             切れ字  かな

 

③    12風流の初やおくの田植うた 

             季語   田植

             切れ字  や

 

④    13世の人の見付ぬ花や軒の栗

             季語   栗の花

             切れ字  や

 

⑤    14早苗とる手もとや昔しのぶ摺

             季語   早苗

             切れ字  や

 

15笈も太刀も五月にかざれ帋かみ幟のぼり

             季語   五月

             切れ字  れ

 

4●16笠島はいづこさ月のぬかり道

             季語   さ月

             切れ字  

 

17桜より松は二木を三月越シ

             季語   桜

             切れ字  し(命令形や形容詞の活用などの切字か?)

 

5●18あやめ草足に結むすばん草鞋の緒

             季語   あやめ草

             切れ字  

 

⑥    19松島や鶴に身をかれほとゝぎす・・・・・曾良

             季語   ほとゝぎす

             切れ字  や

 

⑦    20夏草や兵どもが夢の跡

            季語   夏草

            切れ字  や

  

21卯の花に兼房みゆる白毛かな・・・・・・曾良

            季語   卯の花

            切れ字  かな

 

⑧    22五月雨の降のこしてや光堂

            季語   五月雨

            切れ字  や

 

6●23蚤虱馬の尿する枕もと

            季語   蚤虱

            切れ字  

 

24涼しさを我宿にしてねまる也

            季語   涼し

            切れ字  也

 

25這出よかひやが下のひきの声

            季語   ひき

            切れ字  よ

 

7●26まゆはきを俤おもかげにして紅粉の花

            季語   紅の花

            切れ字  

 

27蚕飼する人は古代のすがた哉・・・・・・曾良

            季語   蚕養

            切れ字  哉

 

⑨    28閑さや岩にしみ入蝉の声

            季語   蝉の声

            切れ字  や

 

 

29五月雨をあつめて早し最上川

             季語   五月雨

             切れ字  し

 

⑩    30有難や雪をかほらす南谷

             季語   雪(ゆきかほるで夏か?)

             切れ字  や

 

⑪    31涼しさやほの三か月の羽黒山

             季語   涼し

             切れ字  や

 

8●32雲の峰幾つ崩て月の山

             季語   雲の峰

             切れ字  

 

33語られぬ湯殿にぬらす袂かな

             季語   

             切れ字  かな

 

34湯殿山銭ふむ道の泪かな・・・・・・・・曾良

             季語   

             切れ字  かな

 

⑫    35あつみ山や吹浦かけて夕すゞみ

             季語   夕すゞみ

             切れ字  や

 

9●36暑き日を海にいれたり最上川

             季語   暑き日

             切れ字  

 

⑬    37象潟きさかたや雨に西施がねぶの花

             季語   ねぶの花

             切れ字  や

 

⑭    38汐越や鶴はぎぬれて海涼し

             季語   涼し

             切れ字  や

 

⑮    39象潟や料理何くふ神祭・・・・・・・・・曾良

             季語   祭

             切れ字  や

 

⑯    40蜑あまの家やや戸板を敷て夕涼・・・・・・・・低耳(みのの国の商人)

             季語   夕涼

             切れ字  や

 

⑰    41波こえぬ契ありてやみさごの巣・・・・・曾良

             季語   (みさごの巣で夏か?)

             切れ字  や

 

⑱    42文月や六日も常の夜には似ず

             季語   文月

             切れ字  や

 

⑲    43荒海や佐渡によこたふ天河

             季語   天河

             切れ字  や

 

10●44一家に遊女もねたり萩と月

             季語   萩と月

             切れ字

 

⑳    45わせの香や分入右は有磯海

             季語   わせ

             切れ字  や

 

46塚も動け我泣声は秋の風

             季語   秋の風

             切れ字  け

 

㉑47秋涼し手毎にむけや瓜茄子

             季語   秋涼し

             切れ字  や

 

11●48あか〱と日は難面つれなくもあきの風

             季語   あきの風

             切れ字  

 

㉒49しほらしき名や小松吹萩すゝき

             季語   萩すゝき

             切れ字  や

 

12●50むざんやな甲かぶとの下のきり〲す

             季語   きりぎりす

             切れ字  

 

51石山の石より白し秋の風

             季語   秋の風

             切れ字  し

 

㉓52山中や菊はたおらぬ湯の匂

             季語   菊

             切れ字  や

 

13●53行〱てたふれ伏とも萩の原・・・・・・曾良 

             季語   萩

             切れ字  

 

㉔54今日よりや書付消さん笠の露

             季語   露

             切れ字  や

 

㉕55終宵よもすがら秋風聞やうらの山

             季語   秋風

             切れ字  や

 

㉖56庭掃きて出ばや寺に散柳

             季語   散柳

             切れ字  や

 

57物書て扇引さく余波なごり哉

             季語   扇

             切れ字  哉

 

58月清し遊行のもてる砂の上

             季語   月

             切れ字  し

 

㉗59名月や北国ほくこく日和びより定なき

             季語   名月

             切れ字  や

 

㉘60寂しさや須磨にかちたる浜の秋

             季語   浜の秋

             切れ字  や

 

㉙61浪の間や小貝にまじる萩の塵

             季語   萩の塵

             切れ字  や

 

62蛤のふたみにわかれ行秋ぞ

             季語   行秋

             切れ字  ぞ

 

 

○ナンバー表示:切れ字「や」の数が二十九句もある。

●ナンバー表示:切れ字が無いと思われる十三句。(17の句は疑問だが?)

        切れ字「けり」はほとんど無いと思われる。

        切れ字「かな」は八句。

 

俳句575第二回「切れ字って何」

 

今回も松尾芭蕉の「奥の細道」に詠まれている俳句を例にあげて考えてみたいと思います。この中には同行した蕉門曾良の5句が含まれています。

 

まず前記にあります俳句六十二句の内で、代表的な切れ字の「や」がどのくらいあるかを調べてみました。ここでは、二十九句、約半数近くの句に、「や」という切れ字を使っています。

 

それでは、逆に切れ字と言われるもの十八ありますが、どれも使っていないと思われる句は、というと、十三句もあり、これは約五分の一の割合です。

 

「や」の他には「かな」が八句。以外なことに「けり」がありません。少し面白い結果です。芭蕉は「奥の細道」の中では、今では代表的な切れ字と言われる「けり」をほとんど使っていないのです。

 

この切れ字に関しては、現代までのあいだに作句の方法として実作にもとづいて確立されてきていますので、芭蕉は、「けり」をほとんど使わずに、大半は「や」を使っていたことが解ります。

 

切れ字の効果として、一つ使うと良いといいます。例句でもすでにほとんどがそのようです。

 

では、代表的な切れ字と言われている「や」「かな」「けり」をもう少し細かく見てみましょう。

 

まずは「や」です。ここで芭蕉は、多くの句にこの「や」を使っています。かなり好んで使用していた訳で、なにか理由を考えてみました。すると、どうやら、「や」は感嘆の助詞として、どこにでも使える便利な言葉のようです。上五に使い語調を整えたり、中七で言葉を強調させて際立たせてみたり、そして下五で感嘆の終止を響かせるというように、575のどこのフレーズにも使えます。

 

ところが「かな」はどうでしょうか。芭蕉は「かな」は最後の止めに使っています。これは「かな」が終止を表す終助詞であるためです。このフレーズで意味が終るということです。まさしく切れ字なのです。

 

そして、芭蕉が嫌いひとつも出てこない「けり」は、過去を表す助詞なので、芭蕉は旅の俳人と言われていて、紀行文のなかに俳句が詠み込まれています。ですから、その土地土地のその旅での句を詠むのに適さなかったに違いありません。

 

このように現代でもよく作句のコツとして「や」「かな」「けり」は、切れ字の代表とされていますが、どうやら「奥の細道」を見ても「去来抄」に残されているように、芭蕉は切れ字には、あまりこだわっていなかったようです。

 

現代でも実作の現場では、あまりこだわらずに名詞止めや動詞の活用のしかたで、それぞれの句をまとめています。

 

やはり切れ字というよりも俳句の575の言葉の切れが美しい調べを整えていて、意味の分かる句にまとめられているかどうかが肝心です。